第二話

「だーめ〜でーす〜っ!!絶対に!」
「そうかのう・・・でも本人がいきたいといってるし・・・・」
この話し合いは「なぜか」学校の第一会議室で行われた。琉治と、天希のクラスの担任の先生だけだったが、「なぜか」会議室での話し合いになった。

天希の担任は峠口一郎という名で、天希の伯父でもある。別居だが、一週間に一回は天希の家に顔を出す。大げさにいえば、毎週家庭訪問があるようなものだ。

この話し合いが行われたのは、昨晩、こんなことがあったからである。

「じいちゃん、じいちゃん」
「なんだ天希?」
「昨日来てたあいつ、いったい何者なんだ?」
「ああ、あいつがあの有名なアビスじゃよ」
「え?魔人アビス・フォレストのこと?」
アビス・フォレストは、その忠実な部下とともに、強力なデラストの力でめのめ町の数倍ある都市をいくつも支配している「魔人」である。めのめ町はその周りに囲まれた小さな港町で、いつその力の支配下になってもおかしくないような状態に陥っている。
魔人とは「種族」のことである。魔人と呼ばれる種族は数種類あるが、アビスはその中の「フォレスト族」に属する。魔人と呼ばれているのはその顔が普通の人間とかけ離れていて、背がかなり高く、肌や血の色が薄い緑か薄い青で、ほとんどが一般の人間に遥かに勝る怪力を持つからである。フォレスト族は、その名が英語で「森」を意味するように、肌の色が緑がかっている。一応、これらの種族も例の宇宙飛行士の子孫、つまり人間なのだ。ただ、通常の地球人そのままの姿の人間が、一般市民として広がり「すぎた」ために、迫害され、ひどい差別を受け、国によっては奴隷として扱うところもあった。
「くそ〜、あいつら、みんながどれだけ迷惑してるかわかってんのかよ」
「わかってないから暴力を振るったり、税金をかってに増やしたりするんじゃろ」
「じゃあなんであいつはそれがわからないんだ?知らないからだ!教えてくれるやつがいないからだ!じゃあだれがやる?今まで誰もやんなかったことを誰がやるって言うんだ?そうだよ、俺がわからせてやるんだ!」
「え・・・・・まさか・・・・・・・・」

「しかし天希もそこまで冒険心があって勇敢だとは思わんかったのう」
「いい迷惑ですね!わかってないのはあなたと天希のほうですって!」
「しか・・・」
「言い訳は通用しませんよ!校長先生がなんと言いますか!」
「OK、といってたぞい」
「うそーん!」
「これで大丈夫じゃろ?」
「・・・・たとえ校長先生の許しがあっても、自分のクラスの生徒を危険な目に遭わせる訳にはいきません!」
「何がそんなに・・・」
「まず第一に、デラストを持ったからと言って、アビスに勝てる訳ではないんですよ!この地方ではあなたのように長い人もいるのに、天希はデラストを持ったばかりなんですよ!」
「だれもすぐ戦うとはいってない。強くなってから倒す、そのためが旅じゃて」
「・・・第二に、天希はまだ子供の分類なんですよ!一人が行ったら、他のみんなまで行こうとしますよ!」
「仲間は多い方が安心じゃろう?」
「いや、そうじゃなくて・・・」
「天希はこの、デラスト・マスターの子じゃぞ。このワシだって、十歳の頃はどれだけ噂が流れたか・・・」
「当時の六年前じゃないですか!あなたがデラストを持ったのは!」

一郎は、みんなが催眠術かなんかにかかっているのではないかと思った。クラスのみんなは、一人を除いて、誰も反対しなかった。その一人といっても、賛成、反対のどちらにも手を挙げなかった。
安土奧華(あずち おうか)という女子がそれだった。しかし先生(一郎)は彼女が手を挙げていないことに気づかなかった。彼女の席は一番後ろだった。
彼女はその日の休み時間は、落ち込んでいる様子で廊下を歩いていた。理由を尋ねる友達はいたが、だれにも返答しなかった。しかし天希がくると、顔を上げて、目を向かい合わせた。

「なんで?」

二人は同じ言葉をほぼ同時に言った。奧華はまた下を向いた。
「なんであのとき、お前だけ手を挙げなかったんだ?」
「なんで行っちゃうのよ?あんた、『副』学級委員長でしょ?あんたが行ったら、委員会が勤まらないわよ」
「なんでそんなこと言うんだ?おまえには関係ないだろ!」
このとき天希は、奧華が言いたいことはそのことではないだろう、と思っていた。
「言いたいことがあるならはっきり言えよ」
これを聞くと、奧華は教室に向かって走っていった。
「うっわ〜」
「うっわ〜」
話を盗み聞きしていた周りの女子達が、天希をにらんでいた。
「な、なんだよ?変な目で見るな!」
天希も教室と反対の方向へ逃げていった。突然誰かにぶつかった。
「わざわざ切り刻まれに来たのかい?この針鼠野郎!」
天希は顔が青ざめた。ぶつかった相手は、三井可朗の兄、幽大(ゆうだい)だった。機に食わない人間がいると、『風』のデラストの攻撃技『かまいたち』で傷だらけにしてしまう、不良生徒と噂の三年生である。
「この前はよくも弟を火あぶりにしてくれたな!てめえはただぶつかっただけの野郎共より多くの血を流さなきゃいけねえ!」
天希は戦闘態勢にはいった。と、突然ものすごい風がふきつけ、天希は壁に激しくぶつかった。
天希は火の玉を出したが、強風に吹き消されてしまった。今度は火の矢を放ったが、結果は同じだった。
今度は幽大のほうがかまいたちを放った。天希はギリギリのところまで引きつけ、炎の剣でかまいたちを防いだ。
チャイムが鳴ったが、戦いは続いていた。攻撃が相手に届かない分、天希の方が不利だった。突然、天希は大声を張り上げて相手を威嚇した。
一瞬風がやんだ。天希は手から炎の剣を出し、幽大に向かって走っていった。天希は相手の目の前で、剣を振り下ろした。
が、そのとき、天希の手には剣は握られていなかった。おどろいた天希の顔と、笑みを浮かべた幽大の顔が向かい合っていた。
「かまいたち!」
「うわああああああっ!!」

天希は包帯だらけで帰ってきた。その夜、天希は祖父にその戦いのことを話した。
「なんじゃ、知らんかったのか?やれやれ、そんなんで旅に出ようとはの・・・・・・」
「・・・・・・」
「天希、コンセントのない充電式の電化製品というのは使い続けるとどうなるかな?」
「・・・・電池がなくなる・・・・」
「そうじゃ天希、デラストもそれと同じように、使い続ければ力がなくなるのじゃよ。しかし、デラストは機械ではない。放っておけば自然と回復するものじゃよ」
「デラスト・エナジーか・・・」
天希は、琉治がだした本を見て言った。



「あびすサマ!あびすサマ!」
「おお、なんだ?」
「アノ、アノ四ツノでらすとヲ持ツでらすたー(デラストを使う人のこと)ノ顔ガワカリマシタ!」
「どれどれ・・・・・」

「は!?」

「どうした?アビス」
向かいの青年が言った。
「やべえよ、なんでオレはあのときに気づかなかったんだー!」
絶望するアビス。
「ふーん、なかなか面白いことになりそうじゃん」
天希の写真を見つめる青年。
そして・・・・・・





つずく


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