第十話

「うわあああああああドコだココおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
天希は薬にやられた大輔をおぶったまま、街の中を突っ走っていた。立ち並ぶビル、恐ろしいくらいの人間の数。間違いなく都市だ。
「病院はドコだああああああああああああああっ」
ドドドドドドドドドドドドドドド・・・・・・・・・





カレンもまたはぐれていた。やはり、自分が一体ドコにいるのか分からない状態だ。人ごみの中を漂流するカレンは、ただビルのそびえ立つ都会の空を眺めなが ら歩いていた。何かビルの横にくっついている。看板だ。
天希はこのことに気づかなかったために、なかなか病院を探し当てることができなかったが、都会では、自分の頭の上に看板があると気づいたカレンは、最終的 に、天希よりも速く病院を見つけてしまった。が、病人がココにいないのでは意味がない。彼女は隣のラーメン屋によっていった。









「目的地」に一番速くついたのは可朗だった。都会の看板のこともよく知っていたし、図書館などを探して、周辺の地図を見れば、ドコだっていけることにも気 づいていた。さらに、ここが一体何処なのか、それを知ったのも可朗だった。
「ここ・・・・グランドラスじゃん・・・・・・」
しかも、可朗が立っているのはある中学校の校門の前だった。天希がもらっていた先輩からの手紙には、中学校の名前が書いてあった。
「ドクドール中学校か・・・」
可朗はその学校の表札を読んだ。

“グランドラス市立 ドクドール 第一中学校”

ビンゴだな。と可朗は思った。









“天希さん、その先輩って何歳年上なんですか?”
天希とカレンはやっと合流した。天希はまだ病人を背負っていた。
「一歳。つまり、今は中三だな」
“中三ですか・・・同じですね”
「えっ!?お前俺達より年上だったの?」
“はい・・・まあ、そうです。ところで、その先輩って、どんな人なんですか?”
「千釜先輩は、俺たちが小学校の頃、デラストを使って、いじめっ子を退治したんだ。そのいじめっ子ときたら、上学年すらおびやかすほど凶暴なやつだったん だぜ」
“えっ、でも、その子ってデラスト持ってなかったんですよね?”
「ああ。でも千釜先輩はそれをやったんだ」
この世界では、デラストを持つ人間が、デラストを持たない人間に暴力を振るうのは犯罪だった。
“捕まらなかったんですか?”
「捕まったよ。当たり前だろ?千釜先輩は、警察に捕まってもいいからって、俺達を全力で守ってくれたんだ。その時まで、他の上学年は、怖くて手が出せな かったんだ」
“ということは、かなり勇気のある人だったんですね”
「俺のあこがれの先輩だからな」
話しながら歩いている間に、2,3件ほど、病院を通り過ぎてしまった。












「二中か!」
可朗は走った。
「天希のやつ、なんでそこまで教えてくれなかったんだ!・・・・・あ、悪いのは自分だよな、思い出さなかった自分が悪いんだ」
可朗は走った。走りながら、自問自答していた。
二時間ほど待って、千釜先輩の通っている学校が、一中ではなく二中だったことを思い出すと、可朗は走り出した。











その頃のめのめ町。

奧華は退屈していた。隣に天希がいないと、どんな授業もつまらなくなる。そんな気持ちで、五時間目の後の休み時間を過ごしていた。自分も可朗と一緒に行け ばよかった。ため息をついたのとほぼ同時に、担任の先生が教室に入ってきた。見慣れない生徒も一緒だ。
「突然だが、転校生を紹介する」
教室がざわめいた。先生の隣に立っていたのは、背が低くて、金髪で、太っている少年だった。
「あ、あの、オイラ、あ、明智、き、君六っていいます・・・・」
なんだか声が弱々しかった。緊張してるのもあるのだろうが、背の高いやつの方を見ては、そわそわしていた。かなりの臆病のようだ。
「君六くんの席は、あそこだ」
先生が指を指したのは、奧華の隣だった。奧華は舌打ちした。転校生がおそるおそるその席に座ると、奧華は転校生をにらんだ。
「いっ!?なっ・・・・なっ・・・・」
「安土、あんまりおびえさせるんじゃないぞ」
奧華はそっぽを向いた。先生が教室を出て、次の時間の教科の先生が変わって入ってくると、奧華は君六の方を向いた。
「あんた、前どこにいたの?」
「えっ!?」いきなり話しかけられて、君六はびっくりした。
「えっと、ドクドール中です、グランドラスの・・・・」
「何!?」教室のみんなが、君六の方を向いた。視線を集中された君六は、あがって何も言えなかった。
「ううう・・・」










天希とカレンは、グランドラスの都市の中を走り回っていた。
「なんで病院が見つからないんだあああああああ」
“あの・・・天希さん・・・さっき、病院・・・・通り過ぎませんでしたか?”カレンは息を切らしながら後ろについていた。
「なんで言わないんだよ!?」
“だって・・・天希さん、足速すぎですよ・・・”
実際、天希は道を遠回りしていて、カレンはその道を通らなかった。たったいま、二人は合流した。
「あっすいません!」「ごめんなさい!」「失礼!」クラス一足が速い天希は、人にぶつかってばかりいた.
(くそう、病院さえ見つかれば・・・・・)天希はこのことばかりに焦っていることを、少しもおかしいとは思わなかった。可朗なら、敵のために、ここまで必 死になっている自分をバカにするだろう。でも諦めたりはしない。ただ単に病院を探すだけなんだ。考えてみれば、たかが病院を探すことだけに、必死になるも のでもない。天希はそう思った。
“天希さん!ありましたよ!”










可朗もまた、二中を探していた。グランドラスは広い。たぶん、めのめ町からほとんど外に出ない天希にとっては観光地になるだろう。
「しまった!もう下校時刻か!」
可朗は腕時計を見た。午後三時五十分。可朗の学校での下校時刻(六時間日課)だった。おそらく、ここでもその時刻には大差ないだろう。ちょうどその時刻 に、可朗は校門の前に立った。
「五時間日課!?」
校舎やグランドからは、全く声が聞こえなかった。
「なんで住所まで教えてくれないんだ!」
可朗は悔しそうに校門をたたいた。金属製の門が巨大な鐘のようにうなった。
「だれや、うちの学校の門たたくやつは!?」
「はっ!すみません!」
可朗はいきなり言われて応答したが、その声は校門の向こうから聞こえた。しかも、可朗が反応したのは、とっさの出来事というだけではない、どこかでその声 を聞いたことがあるのだ。グラウンドを歩いていたそいつは、可朗の方へ走ってきた。
「お前・・・・まさか可朗?」
「ち・・・・千釜先輩!」











つずく


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