「お前らみたいなやつは、この水石大輔がまとめテ始末シテヤル!」 未だ雪が降り積もる中、そいつは立っていた。が、少し病弱な姿勢で、動くたびにふらついていた。年齢は自分たちとは変わらないのだろうが、異常にやつれていて、目は血走っていた。 「・・・戦いに飢えた目だ・・・・あの陰山とか言うやつみたいに」 「何?」 「そう言えばいたねえ・・・陰山飛影・・・・」 「陰山アアアァアアァァッ!!」 「なっ!?何だいきなり!?」 大輔は飢餓したようにうなりだした。 「完全にいかれてるな・・・・・・よし、いくぞ!天希!、カレンちゃ・・・・・・あれ?」 「カレンがいないぞ!」 「えええーーーーーっ!?」 「オイ・・・・」 「一体どこに消えたんだ!?」 「どこかにおいてきたとか・・・・・」 「いや、たった今ここにいたよな」 「オマエラ・・・・」 「うん。足跡もあるけど・・・・・・ここでなくなってる!」 「まさかあいつ、空飛べるのか!?」 「それとも、瞬間移動したのかな!?」 「イイカゲンニ!シローーーーーーー!!!」 「うわっ!」 「しかたねえ、二人で相手するぞ」 気がつくと、カレンは洞窟にいた。床、壁、天井全体が氷ばりになっていた。出口は見えていたが、汚れのない美しい氷が、外からの太陽の光を反射し、鮮やかに輝いていた。そのため、洞窟の中でも暗いとは感じなかった。 気がつくと、誰かの足音がする。洞窟全体に響き渡る足音で、氷の床にも足をさらわれず、自然で一定な足音だった。カレンは、不安と好奇心の目で、その方向を向いた。その男の顔を見た時、カレンの中に一気に不安が募った。真っ黒な紳士服。ピカピカのシルクハット。そして、いかにも紳士的な歩き方。ただ、その歩き方にも、どこかうさんくさい感じが隠れていた。 「これはこれは、ネロ・カレン・バルレン様、一体何をお求めでこの山に?」 その声は、カレンに対する皮肉さも混じっていた。 “あなたは・・・・・・・薬師寺悪堂ですね・・・・・” その名だけは、はっきりと声に出た。 「おやおや、我が名を覚えてくださるとは・・・・」 “当然です!あなたは・・・・あなたは我々の・・・先生だったのですから・・・・” 「その先生の目の前で、一体何をためらっているのです?」 そう、前回の、『カレンを育てた親』とは、この薬師寺悪堂だったのだ。 “優しかったあなたが・・・・なぜ・・・・・” カレンの目に涙が込み上げてきた。 「ん?今まで薬物販売者であった私を、まだ疑うつもりですか?いまは晴れて、かの有名なアビス軍団の幹部に・・・」 “冗談はやめてください!”カレンの心は、すでにズタズタだったが、この男との再会によって、その傷が開いた。“あなたはもう、あの頃の優しい芸人には戻 れないんですか!?アビス軍団は悪の組織です!もう、これ以上、我々を困らせないでください!!” 「ですが、あの方だけは自らあなたを裏切ったでしょう?『我々』というからには、あの方も入るはず・・・・・」 “いいえ!あの人は、カレン様(ガロがしゃべってる)のパパ様は、あなた方に操られてるのです!そして水石大輔君や、他の人たちも!” 「ほう・・・・・・さすがは『あの方』の娘、ネロ・カレン・バルレン・・・・・・・・お気づきなられてましたか」 “一体、何をしたのです・・・・・・?” 「何をしたかって?おわかりでしょう、私の前業からして・・・・・」 “あなたは、人を意のままに操っています!” 「それがデラストの力だとお考えにならないのは?」 “カレン様の持つデラストだからです!” 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 “・・・・・・・” 「・・・・・・そこまで予想できるとは、やはり、ネロ・バルレン兄妹、頭が切れますね・・・・・まあ、その人形がいれば、頭は増えますがね」 “私の質問に答えてください!一体何をしたんですか!?” 「ホッホッホッ、ではお見せいたしましょう、我が最新兵器を!」 薬師寺悪堂は、懐からビンを取り出した。 「人の理性を奪い、同時にデラストの力を一時的に急増させる、これこそが我が最新兵器、ヴェノム・ドリンク!」 カレンは息をのんだ。 「私はこの薬で団員を増やした。私のお得意のUSOでね!あの方でさえこの薬にだまされた、まさに我が軍の必然・・・いや、最強のアイテムと言えるでしょ う!」 カレンは、口を閉じたままだった。 (もしかして、アビス公は本物のボスじゃなくて、こいつが黒幕・・・?私のパパまでもをだました・・・・・許せない!表のボスは、ただ操られていただけな んだ!) 薬師寺悪堂は、ゆっくりとカレンの方へ歩み寄った。カレンも後ずさりした。 「さて、私は多くのデラスト実力者を集め、それで足りなければ、身体、精神、そしてデラストの成長が最も激しい、10代のガキ共を集め た・・・・・・・・・・そして、その二つの条件がそろう者がいる。そいつは、今、私の前にいる!」 薬師寺悪堂は不気味に微笑んだ。すると、突然カレンの体はこわばり、金縛りにあったように動けなくなってしまった。 「これであなたは身動きできない!さあ、飲め!飲め!父親の元へ行きたいなら、貴様もこれを飲むのだアアア!」 薬師寺悪堂自身が、普段の冷静さを忘れ、自分の野望がまた一歩実現するということに興奮していた。カレンは、迫ってくる薬師寺悪堂の悪魔のような顔に、変 わり果てた育て親を前に、思わず目をつぶって縮こまった。 だが、薬師寺悪堂が迫ってくるはずが、ズドンというものすごい音にその気配がかき消された。目を開けると、薬師寺悪堂のいた場所に、巨大なつららが突き刺 さっていた。一秒とたたないうちに、そのつららは、凍った地面に倒れた。カレンは天井を見た。確かにこのつららは天井から落ちてきたものだ。が、切り口は 自然に落ちたのではなく、まるで鋭い刃物に切断されたような切り口だった。そういえば、薬師寺悪堂はなぜか妙に辺りをきょろきょろ見回していたし、自分も 何か別の者の気配を感じた。一体誰が・・・・・・ ふと、外から、誰かの声が聞こえた。また天希の声だ。まだ戦っているらしい。 洞窟内に他の気配はない。行こう。 天希は思った以上に苦戦していた。可朗は既にデラスト・エナジーを空にしてしまったため、氷付けにされていた。それに比べて、相手はなんていうエナジーの 量だ。可朗を倒して、今度は俺を倒そうとしても、こいつは全然やられそうにない。デラストの相性は良かったはずなのに? 「火が絶対かつって訳じゃねーんだな」 天希は凍りづけにされた。 大輔は二体目の冷凍品をそろえると、理性を取り戻した。 「クックック、これで報酬もグンと上がるぞ」 大輔は正気に戻っていたが、その体はやはりガリガリになっていた。そこへカレンがかけつけてきた。 そのとき。 「ゔわあああああああああっ!痛い!痛いいいい!助けてくれえええ!」 水石大輔は、急に叫びだした。体中の骨がバキバキと音を立てて折れ、どんどんやせ細り、タコのようにグニャグニャになっていった。 「苦しいっ!苦しいいいいいいいっ・・・・・・」 ミイラのようになった大輔は、やがて雪の上に横たわり、動かなくなった。おぞましい光景を見たカレンは叫びそうになったが、やはりカレン自身の口からは声 が出なかった。彼女は急いで天希と可朗を助けだした。 「なんだこれは!」 氷の中から出てきた天希は、大輔の姿に驚いた。 「下に町がある!」 可朗は叫んだ。 天希は、大輔を背負い、山の斜面を思いっきり駆けていった。 |